P--159 '讃弥陀C.txt P--160 P--161 #1讃阿弥陀仏偈    讃阿弥陀仏偈                             曇鸞法師作  南無阿弥陀仏{釈して無量寿と名づく。『経』(大経)に傍へて奉讃す。また安養ともいふ。} 【1】  現に西方この界を去ること、十万億刹の安楽土にまします。   仏世尊を阿弥陀と号けたてまつる。われ往生せんと願じて帰命し礼した   てまつる。 【2】  成仏よりこのかた十劫を歴たまへり。寿命まさに量りあることなし。   法身の光輪法界にあまねくして、世の盲冥を照らす。ゆゑに頂礼したて   まつる。 【3】  智慧の光明量るべからず。ゆゑに仏をまた無量光と号けたてまつる。   有量の諸相光暁を蒙る。このゆゑに真実明を稽首したてまつる。 【4】  解脱の光輪限斉なし。ゆゑに仏をまた無辺光と号けたてまつる。 P--162   光触を蒙るもの有無を離る。このゆゑに平等覚を稽首したてまつる。 【5】  光雲無礙にして虚空のごとし。ゆゑに仏をまた無礙光と号けたてまつる。   一切の有礙光沢を蒙る。このゆゑに難思議を頂礼したてまつる。 【6】  清浄の光明対ぶものあることなし。ゆゑに仏をまた無対光と号けたて   まつる。   この光に遇ふもの業繋除こる。このゆゑに畢竟依を稽首したてまつる。 【7】  仏光照曜すること最第一なり。ゆゑに仏をまた光炎王と号けたてまつる。   三塗の黒闇光啓を蒙る。このゆゑに大応供を頂礼したてまつる。 【8】  道光明朗にして、色超絶したまへり。ゆゑに仏をまた清浄光と号けた   てまつる。   一たび光照を蒙れば、罪垢除こりてみな解脱を得。ゆゑに頂礼したてま   つる。 【9】  慈光はるかに被らしめ、安楽を施したまふ。ゆゑに仏をまた歓喜光と号   けたてまつる。   光の至るところの処法喜を得。大安慰を稽首し頂礼したてまつる。 P--163 【10】  仏光よく無明の闇を破す。ゆゑに仏をまた智慧光と号けたてまつる。   一切諸仏・三乗衆、ことごとくともに歎誉したまへり。ゆゑに稽首した   てまつる。 【11】  光明一切の時にあまねく照らす。ゆゑに仏をまた不断光と号けたてま   つる。   光力を聞くがゆゑに、心断えずしてみな往生を得。ゆゑに頂礼したてま   つる。 【12】  その光仏を除きてはよく測るものなし。ゆゑに仏をまた難思議と号けた   てまつる。   十方諸仏往生を歎じ、その功徳を称したまへり。ゆゑに稽首したてまつ   る。 【13】  神光、相を離れたれば、名づくべからず。ゆゑに仏をまた無称光と号け   たてまつる。   光によりて成仏したまへば、光赫然たり。諸仏の歎じたまふところな   り。ゆゑに頂礼したてまつる。 P--164 【14】  光明照曜すること日月に過ぎたり。ゆゑに仏を超日月光と号けたてま   つる。   釈迦仏歎じたまふもなほ尽きず。ゆゑにわれ無等等を稽首したてまつる。 【15】  阿弥陀仏の初会の衆は、声聞・菩薩の数無量なり。   神通巧妙にして算ふることあたはず。このゆゑに広大会を稽首したて   まつる。 【16】  安楽の無量の摩訶薩は、みなまさに一生にして仏処を補ふべし。   その本願の大弘誓をもつて、あまねくもろもろの衆生を度脱せんと欲す   るを除く。   これらの宝林功徳聚を、一心に合掌し頭面をもつて礼したてまつる。 【17】  安楽国土のもろもろの声聞は、みな光一尋にして流星のごとし。   菩薩の光輪は四千里にして、秋の満月の紫金に映ずるがごとし。   仏の法蔵を集めて衆生のためにす。ゆゑにわれ大心海を頂礼したてまつ   る。 【18】  また観世音・大勢至は、もろもろの聖衆において最第一なり。 P--165   慈光大千界を照曜し、仏の左右に侍して神儀を顕す。   もろもろの有縁を度してしばらくも息まざること、大海の潮の時を失せ   ざるがごとし。   かくのごとき大悲(観音)・大勢至を、一心に稽首し頭面をもつて礼した   てまつる。 【19】  それ衆生ありて安楽に生ずれば、ことごとく三十有二相を具す。   智慧満足して深法に入る。道要を究暢して障礙なし。   根の利鈍に随ひて忍を成就す。三忍乃至不可説なり。   宿命五通つねに自在にして、仏に至るまで雑悪趣に更らず。   他方の五濁の世に生じて、示現して同じく大牟尼(釈尊)のごとくなる   を除く。   安楽国に生じて大利を成ず。このゆゑに心を至して頭面をもつて礼した   てまつる。 【20】  安楽の菩薩は仏の神を承けて、一念のあひだに十方に詣る。   算数すべからざる仏世界にして、もろもろの如来を恭敬し供養したてま P--166   つる。   華・香・伎楽、念に従ひて現じ、宝蓋・幢幡、意に随ひて出づ。   珍奇なること世に絶れてよく名づくることなし。散華して殊勝の宝を供   養したてまつれば、   化して華蓋となり、光晃耀し、香気あまねく薫じてあまねからざるは   なし。   華蓋の小なるものも四百里なり。すなはちあまねく一仏界を覆ふことあ   り。   その前後に随ひて次いで化し去る。このもろもろの菩薩みな欣悦す。   虚空のなかにおいて天楽を奏し、徳を雅讃し、仏慧を頌揚す。   経法を聴受して供養しをはりて、いまだ食せざる前に虚に騰りて還る。   神力自在にして測るべからず。ゆゑにわれ無上道を頂礼したてまつる。 【21】  安楽仏国のもろもろの菩薩、それ宣説すべきことは智慧に随ふ。   おのが万物において我所を亡ず。浄きこと蓮華の塵を受けざるがごとし。   往来進止汎べる舟のごとし。利安を務めとなして適莫を捨つ。 P--167   かれもおのれも空のごとくして二想を断ず。智慧の炬を燃して長夜を照   らす。   三明六通みなすでに足れり。菩薩の万行心眼を貫く。   かくのごとき功徳辺量なし。このゆゑに心を至して頭面をもつて礼した   てまつる。 【22】  安楽の声聞・菩薩衆、人天、智慧ことごとく洞達せり。   身相の荘厳殊異なし。ただ他方に順ずるがゆゑに名を列ぬ。   顔容端正にして比ぶべきなし。精微妙躯にして人天にあらず。   虚無の身無極の体なり。このゆゑに平等力を頂礼したてまつる。 【23】  敢みてよく安楽国に生ずることを得れば、みなことごとく正定聚に住   す。   邪定・不定その国になし。諸仏ことごとく讃じたまふ。ゆゑに頂礼し   たてまつる。 【24】  あらゆるもの、阿弥陀の徳号を聞きて、信心歓喜して聞くところを慶び、   すなはち一念に曁ぶまで心を至すもの、回向して生ぜんと願ずればみな P--168   生ずることを得。   ただ五逆と謗正法とを除く。ゆゑにわれ頂礼して往生を願ず。 【25】  安楽の菩薩・声聞の輩、この世界において比方なし。   釈迦無礙の大弁才をもつて、もろもろの仮令を設けて少分を示し、   最賤の乞人を帝王に並べ、帝王をまた金輪王に比ぶ。   かくのごとく展転して六天に至る。次第してあひ形すことみな始めのご   とし。   天の色像をもつてかれに喩ふるに、千万億倍すともその類にあらず。   みなこれ法蔵願力のなせるなり。大心力を稽首し頂礼したてまつる。 【26】  天・人一切須むるところあれば、欲に称はざるはなし。念に応じて至る。   一宝・二宝・無量宝、心に随ひて受用の具を化造す。   堂宇・飲食ことごとくかくのごとし。ゆゑにわれ無称仏を稽首したてま   つる。 【27】  もろもろの往生するもの、ことごとく清浄の色身を具足して、比ぶべ   きなし。 P--169   神通功徳および宮殿・服飾の荘厳は六天のごとし。   応器の宝鉢自然に至り、百味の嘉&M044199;たちまちすでに満つ。   色を見、香りを聞き、意に食せんとすれば、忽然として飽足し適悦を受   く。   味はふところ清浄にして着するところなし。事已れば化し去り、須む   ればまた現ず。   晏安たる快楽は泥&M017421;に次し。このゆゑに心を至して頭面をもつて礼した   てまつる。 【28】  十方仏土の菩薩衆およびもろもろの比丘、安楽に生ずるもの、   無量無数にして計るべからず。已生・今生・当もまたしかなり。   みなかつて無量の仏を供養し、百千堅固の法を摂取す。   かくのごとき大士ことごとく往生す。このゆゑに阿弥陀を頂礼したてま   つる。 【29】  もし阿弥陀仏の号を聞きて、歓喜し讃仰し、心帰依すれば、   下一念に至るまで大利を得。すなはち功徳の宝を具足すとなす。 P--170   たとひ大千世界に満てらん火をも、またただちに過ぎて仏の名を聞くべ   し。   阿弥陀を聞けば、また退かず。このゆゑに心を至して稽首し礼したてま   つる。 【30】  神力無極の阿弥陀は、十方無量の仏の歎じたまふところなり。   東方恒沙の諸仏の国、菩薩無数にしてみな往覲す。   また安楽国の菩薩・声聞・もろもろの大衆を供養し、   経法を聴受して道化を宣ぶ。自余の九方もまたかくのごとし。   釈迦如来、偈を説きて、無量の功徳を頌したまふ。ゆゑに頂礼したてま   つる。 【31】  諸来の無量菩薩衆、徳本を殖ゑんがために虔恭を致す。   あるいは天楽を奏して仏を歌歎し、あるいは仏慧の世間を照らすを頌す。   あるいは天の華・衣をもつて供養し、あるいは浄土を覩て等願を興す。   かくのごとき聖衆ことごとく現前し、八梵声をもつて仏記を授くるを蒙   る。 P--171   一切の菩薩願行を増す。ゆゑにわれ婆伽婆を頂礼したてまつる。 【32】  聖主世尊(阿弥陀仏)説法の時、大衆七宝の堂に雲集す。   仏の開示を聴きてことごとく悟入し、歓喜充遍してみな道を得。   時に四面より清風起り、宝樹を撃動して妙響を出す。   和韻清徹にして糸竹に過ぎ、金石に踰えて倫比なし。   天華繽紛として香風を逐ひ、自然の供養つねにして息まず。   諸天また天の華香を持し、百千の伎楽もつて敬ひを致す。   かくのごとき功徳三宝の聚なり。ゆゑにわれ想を運らして講堂を礼した   てまつる。 【33】  妙土広大にして数限を超ゆ。自然の七宝をもつて合成するところなり。   仏の本願力より荘厳起る。清浄大摂受を稽首したてまつる。 【34】  世界光曜すること妙にして殊絶す。適悦晏安として四時なし。   自利他利の力円満したまふ。方便巧荘厳を帰命したてまつる。   宝地澄静にして平らかなること掌のごとく、山・川・陵・谷の阻ある   ことなし。 P--172   もし仏の神力をもつて須むればすなはち見る。不可思議尊を稽首したて   まつる。 【35】  道樹の高さ四百万里、周囲由旬五千あり。   枝葉布くこと里二十万なり。自然の衆宝をもつて合成するところなり。   月光摩尼・海輪宝、衆宝の王をもつて荘厳す。   周匝してあひだに垂るる宝の瓔珞は、百千万種の色に変異す。   光焔照曜すること千日に超え、無極の宝網その上に覆へり。   一切の荘厳随ひて応現す。道場樹を稽首し頂礼したてまつる。 【36】  微風、樹を吹きて法音を出し、あまねく十方諸仏の刹に流る。   この音を聞くもの深法忍を得、仏道を成ずるに至るまで苦に遭はず。   神力広大にして量るべからず。道場樹を稽首し頂礼したてまつる。 【37】  樹香・樹色・樹音声・樹触・樹味および樹法、   六情遇へば法忍を得。ゆゑにわれ道場樹を頂礼したてまつる。 【38】  道場樹の六根に対するを蒙り、すなはち成仏に至るまで根清徹なり。   音響・柔順・無生忍、力の浅深に随ひてことごとく証を得。 P--173   この樹の威徳の由来するところ、みなこれ如来(阿弥陀仏)五種の力なり。   神力と本願および満足と、明了と堅固と究竟願となり。   慈悲方便称るべからず。真無量を帰命し稽首したてまつる。 【39】  世の帝王より六天に至るまで、音楽うたた妙にして八種あり。   展転して勝るること千億万倍、宝樹の音の麗しきこと倍してまたしかな   り。   また自然の妙なる伎楽あり。法音清和にして心神を悦ばしめ、   哀婉雅亮にして十方に超ゆ。ゆゑにわれ清浄楽を稽首したてまつる。 【40】  七宝の樹林世界にあまねし。光耀鮮明にしてあひ映発す。   華・菓・枝・葉たがひになる。本願功徳聚を稽首したてまつる。 【41】  清風時々に宝樹を吹くに、五の音声を出して宮商和す。   微妙の雅曲自然に成ず。ゆゑにわれ清浄勲を頂礼したてまつる。 【42】  その土広大にして崖際なく、衆宝の羅網あまねく上に覆へり。   金縷珠&M021253;、奇異の珍、不可名の宝をもつて校飾となす。   四面に周匝して宝鈴を垂る。調風吹き動かして妙法を出す。 P--174   和雅の徳香つねに流布せり。聞くもの塵労の習起らず。   この風身に触るれば快楽を受くること、比丘の滅尽定を得るがごとし。   風吹きて華を散らし、仏土に満つ。色の次第に随ひて雑乱せず。   華質柔軟にして列芬芳たり。足その上を履むに下ること四指。   足を挙ぐる時に随ひてまた故のごとし。用ゐをはれば地開け、没して遺   ることなし。   その時節に随ひて華六返す。不可議の報なり。ゆゑに頂礼したてまつる。 【43】  衆宝の蓮華世界に盈つ。一々の華に百千億の葉あり。   その葉の光明の色無量なり。朱・紫・紅・緑五色に間はり、   &M019189;&M019390;煥爛として日光より曜く。このゆゑに一心に稽首し礼したてまつる。 【44】  一々の華のなかより出すところの光、三十六百有千億なり。   一々の華のなかに仏身あり。多少また出すところの光のごとし。   仏身の相好金山のごとし。一々また百千の光を放ち、   あまねく十方のために妙法を説き、おのおの衆生を仏道に安んず。   かくのごとき神力辺量なし。ゆゑにわれ阿弥陀を帰命したてまつる。 P--175 【45】  楼閣・殿堂工の造にあらず。七宝の彫綺化してなるところなり。   明月・珠&M021276;、交露の縵あり。おのおの浴池あり、形あひ称ふ。   八功徳の水池のなかに満てり。色味香潔にして甘露のごとし。   黄金の池には白銀の沙あり。七宝の池の沙たがひにかくのごとし。   池岸の香樹上に垂れ布き、栴檀芬馥としてつねに馨りを流す。   天華彩&M021270;として映飾をなす。水上&M019333;燿として景雲のごとし。   無漏の依果、思議しがたし。このゆゑに功徳蔵を稽首したてまつる。 【46】  菩薩・声聞宝池に入れば、意に随ひて浅深欲するところのごとし。   もし身に灌がんと須むれば、自然に注ぐ。旋復せしめんと欲すれば、水   すなはち還る。   調和冷暖にして称はざるはなし。神開け体悦びて、心垢を蕩かす。   清明澄潔にして形なきがごとし。宝沙映徹して深からざるがごとし。   澹淡として回転りてあひ注灌す。嬋約容予にして人の神を和らぐ。   微波無量にして妙響を出す。その所応に随ひて法語を聞く。   あるいは三宝の妙章を聞き、あるいは寂静・空・無我を聞き、 P--176   あるいは無量の波羅蜜・力・不共法・諸通慧を聞き、   あるいは無作・無生忍、乃至甘露灌頂の法を聞く。   根の性欲に随ひてみな歓喜す。三宝の相と真実の義に順ひて、   菩薩・声聞の所行の道、ここにおいて一切ことごとくつぶさに聞く。   三塗苦難の名永く閉ぢ、ただ自然快楽の音のみあり。   このゆゑにその国を安楽と号く。頭面をもつて無極尊を頂礼したてまつ   る。 【47】  本師龍樹摩訶薩、形を像始に誕じて頽綱を理へ、   邪扇を関閉して正轍を開く。これ閻浮提の一切の眼なり。   伏して承るに尊(龍樹)、歓喜地を悟りて、阿弥陀に帰して安楽に生ぜり。 【48】  たとへば龍動けば雲かならず随ふがごとし。閻浮提に百卉を放ち舒ぶ。   南無慈悲龍樹尊、心を至し帰命し頭面をもつて礼したてまつる。 【49】  われ無始より三界に循りて、虚妄輪のために回転せらる。   一念一時に造るところの業、足六道に繋がれ三塗に滞まる。   ただ願はくは慈光、われを護念して、われをして菩提心を失せざらしめ P--177   たまへ。   わが仏慧功徳を讃ずる音、願はくは十方のもろもろの有縁に聞かしめて、   安楽に往生することを得んと欲するもの、あまねくみな意のごとくにし   て障礙なからしめん。   あらゆる功徳もしは大少、一切に回施してともに往生せん。   不可思議光に南無し、一心に帰命し稽首して礼したてまつる。 【50】  十方三世の無量慧、同じく一如に乗じて正覚を号したまふ。   二智円満して道平等なり。摂化縁に随ふがゆゑに若干なり。   われ阿弥陀の浄土に帰するは、すなはちこれ諸仏の国に帰命するなり。   われ一心をもつて一仏を讃ず。願はくは十方無礙人にあまねからん。   かくのごとき十方無量の仏、ことごとくおのおの心を至して頭面をもつ   て礼したてまつる。  讃は一百九十五、礼は五十一拝。 P--178 讃阿弥陀仏偈